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最高裁判所第二小法廷 昭和35年(オ)624号 判決 1962年5月18日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人矢野範二、同倉地康孝の上告理由第一点について。

論旨は、原審が本件嘱託契約を雇用契約と判断したのは法令の適用を誤つたものである、という。

しかし、原判決(その引用する第一審判決)の確定した事実によれば、被上告人の職務内容は、上告人会社において「ドクター塗装機械」用の塗料製法の指導、塗料の研究であり、一般従業員とは異なり、直接加工部長の指揮命令に服することなくむしろ同部長の相談役ともいうべき立場にあり、また遅刻、早退等によつて給与の減額を受けることがなかつたとはいえ、週六日間朝九時から夕方四時まで勤務し、毎月一定の本給のほか時給の二割五分増の割合で計算した残業手当の支払を受けていたというのであるから、本件嘱託契約が雇用契約(厳密にいえば、労働契約)であつて、被上告人は労働法の適用を受くべき労働者であるとした原審の判断は、正当であつて、所論の違法はない。

論旨は、叙上と相容れない独自の見解に立脚して原判決を攻撃するに過ぎないものであり、採用し得ない。

同第二点について。

論旨は、原判決が本件就業規則一八条の規定は被上告人のごとき特殊の地位を有する従業員に対しても適用があるとしたことに、審理不尽の違法がある、と主張する。

しかし、原判決は、本件就業規則のすべての条項が被上告人のごとき特殊の地位を有する従業員に妥当するものとはいえないが、同規則一八条の規定に関する限り、右のごとき従業員に対しその適用を否定すべき規定も根拠も存しないとして、所論の認定をしていることは、その摘示理由に徴し明らかである。従つて、同条の規定をこれと反対に解すべき特段の事情を窺うに足る資料のない本件においては、右認定に所論の違法があるものとはなし得ない。

されば、論旨は、理由なきに帰し、採用できない。

同第三点について。

論旨は、原判決が本件就業規則一八条五号にいう「その他前各号に準ずる場合」の意味内容について何ら審理、判断を加わえることなく、漫然被上告人の判示行為が同条所定のいずれの解雇事由にも該当しないと判示したのは、審理不尽ひいては同条項の解釈適用を誤つたものである、といい、また、上告人が原審において、普通解雇の事由を規定した右規則一八条五号の「その他前各号に準ずる場合」には、当然懲戒解雇に関する同規則五七条三号、五号、一三号所定の事由が含まれ、被上告人の判示行為は右懲戒解雇事由に該当するから、被上告人に対する本件解雇は右規則一八条五号の規定に照らしても有効たるを失わない旨を主張したことは、記録上明らかであるから原審としては、被上告人の判示行為が右規則一八条五号に該当しないと判示するにあたり、同条項と所論懲戒解雇事由との関係についても論及するのを相当とすべく、原審がこの点の明細な判示を欠いていることは、法令の解釈を誤り審理不尽の違法があるという。

しかし、原審は証拠に基ずき本件発明に関する特許出願等についての上告人、被上告人間の相互の意見の対立、接衝の経緯、転末を審理、認定したうえ、被上告人の判示行為は右規則一八条所定のいずれの解雇事由にも該当しないと判断しているのであつて、右判示には、当然上告人の前記主張の事由も考慮のうえ、これを含めて解雇事由に該当しないとしてこれを排斥する趣旨であると解するのを相当とするので、原判決に所論の如き審理不尽の違法ありとはなし難く、右論旨もまた、結局理由なきに帰し、排斥を免かれない。

同第四点について。

論旨は、被上告人の判示行為は民法六二八条にいう「已ムコトヲ得ザル事由」に該当するものであるから、被上告人に対する本件解雇は有効であるというが、記録を精査しても、原審(および第一審)において上告人が右のごとき事実を主張、立証した形跡は認められず、上告適法の理由となり得ない。

よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

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